こんにちは。
前回からの続き、『熊はどこにいるの』です。
アラフォー的見どころ②死を選ばない限りは生きていくしかない
我ながら重苦しいことを言うなあと思いますが(笑)。
4人の女性たちの姿を追っていてそう感じました。
4人それぞれ孤独と闇を抱えていますが、特に50代のリツが印象的でした。
前述の通り、リツは幼少期に叔父から性虐待を受けたせいで全ての男性を拒絶しています。
そればかりか同性とも心許せる関係を作ることができません。
辛く寂しい生き方ですよね。
でも今さらどうすることもできないですし、過ぎた時間は取り返しがつきません。
そんなリツの心の支えは、無心になれるお菓子作りと狩猟、そして狩った獲物の解体です。
ほんと、人はどうにもならない自分をどうにか保つ術を持ちながら、なんとか生きていくしかないんです。
この点はめちゃくちゃわかります。
人生ってオセロみたいじゃないですか?
時間の経過とともに流れが固まって選択肢が少なくなっていく。
(でも黒だと思っていたものが一気に白に反転する瞬間もありますね!!)
リツがまじめに畑仕事に励み、家事をこなし、きちんと生活している姿が印象的です。
世の中の大半の人はそうなのではないでしょうか。
口をつぐみ生活している。
私も含め、まじめに日々を生きている大人はみんな偉いと思います。
アラフォー的見どころ③一緒に過ごせることは実は奇跡
男子禁制の丘の家に住むリツとアイ。
偶然男の子の赤ちゃん(ユキ)を拾い、手放すことができずにそのまま推定5歳まで養育してしまいます。
いやいや、普通に犯罪でしょ、その判断おかしいでしょ、と言いたくなりますが。
でも新生児だったユキにぴったり寄り添い成長を支援するリツとアイは、確かにユキの家族でした。
夜泣き、哺乳瓶の消毒、ミルクの後のげっぷ、つかまり立ち、離乳食、トイレトレーニング、イヤイヤ期…成長の過程にずっと付き添います。
実は物語の冒頭で、推定5歳のユキが失踪します。
ユキの成長の様子がかなり細かく描かれているからこそ、ユキが去ったあとぽっかり穴が開いたように思えて切ないんですよね。
現在私も小学生の子供を育てていますが、いずれ子供は巣立って行きます。
毎日当然のようににぎやかに過ごしていても、いつか一人家に残る時が来ます。
リツ、アイ、サキ、ヒロ、の4人の女性たちもお互いの人生がひととき交錯する時があっても、やはり離れていき、最後にヒロだけが残されます。
人はたとえ親子であってもそれぞれの人生を生きていくしかないのでずっと一緒にはいられません。
それぞれ持って生まれたものや抱えている事情は違いますからね。
だからこそひととき一つ屋根の下で暮らせることは奇跡なのではないかと思います。
ユキを育てるリツとアイの姿を見て、人が育っていくことと家族が共に暮らすことの切なさをしみじみ感じました。
日々の忙しさに「キ~!!」ってならないで、その尊さを感じられる余裕を持ちたいです。
最後にまとめ
いや~『熊はどこにいるの』、心震えましたね。
気持ちが明るくなるストーリーでは決してありません。
でも木村さんは書かないと生きていけないくらいの切実さをもってこの作品を書いたのではないでしょうか。
木村さんの身の内からの叫びのようなものを感じて圧倒されました。
以前読んだ宇佐見りんさんの『くるまの娘』に似た衝撃でした。
木村紅美さん、この先も見逃せない作家さんです。
木村さんの言葉に今後も耳を傾けていきます。
