アラフォー過ぎても人生楽しみたい  本・子育て・人間関係

アラフォー司書です。書評中心に思うところを綴ります。キラキラしてません。

「鍵のない夢を見る」ー地方に生きる女子のリアルー

これを読んでくださっているみなさんはどこに住んでいますか?
首都圏でしょうか?
それとも地方の大都市?
あるいは過疎地域かもしれませんね。

 

これを書いている私は関西地方の田舎に住んでいます。
就職・結婚のため生まれた町をいったん出たものの、数年前に舞い戻って来ました。
自分が通った小学校に我が子を通わせ、近所は昔からの顔なじみばかり。
幼なじみのママ友もたくさんいます。
最初から自分のことを認識してもらえている安心感があります。
その一方で、本来なら必要のない場面(ちょっと入った店や美容院)でも、「どこの誰」と素性を明かさないといけないことにやはり違和感を覚えます。

 

私が感じる「安心感」と「違和感」はもしかしたら日本の多くの地方コミュニティに漂っている感覚なのかもしれません。

 

今回ご紹介する本は、辻村深月さんの「鍵のない夢を見る」です。

第147回直木賞受賞作なのでご存じの方も多いと思います。
いずれも日本の地方の町に生きる女性を主人公とした5編の短編からなる本です。
ではさっそくどんな本なのか見ていきましょう。

 

 

作者・辻村深月さんについてさらっと


話題作を次々に世に送り出す作家さんなのであえて説明なんていらないと思いますが…。
1980年山梨県生まれ。
(私とばっちり同世代なのでやっぱり親近感が湧きます)
2004年「冷たい校舎の時は止まる」でメフィスト賞を受賞しデビューされています。
その後「ツナグ」「かがみの孤城」「ハケンアニメ!」「傲慢と善良」など多くの作品を発表されています。
映画化作品も多いですね!
ちなみに「毎日小学生新聞」に連載されたエッセイをまとめた「あなたの言葉を」は本気で泣けます。

 

ではでは「鍵のない夢を見る」について!


先述しましたが短編集です。
ちょっとタイトルをずらっと挙げてみますね。
 仁志野町の泥棒
 石蕗南地区の放火
 美弥谷団地の逃亡者
 芹葉大学の夢と殺人
 公本家の誘拐
ローカル感あふれる固有名詞のオンパレード。こういう読めそうで読めない地名、日本のあちこちにありますよね。
これだけで「うわー、なんかリアル。私の住む地域のことみたい」なんて感じちゃいます。
5編とも地方に住む女性の閉塞感が描かれ、不穏な空気が漂っています。

 

一番刺さったのは「仁志野町の泥棒」!

 

簡単にあらすじを説明しますと…。
小学校教諭のミチルは母に付き合って参加したバスツアーで、偶然かつての同級生律子と再会します。
バスガイドとして地元で働く律子。
ミチルの胸には律子と過ごした小学生時代の思い出、そして律子の信じがたい家庭環境がよみがえってきます。
早い段階で明らかになるので言ってしまいますが、「泥棒」とは律子の母なんです。
近所の家々に侵入し現金を盗み、噂になると引っ越す、を繰り返していたのです。
でも町の人たちは警察に通報するでもなく、本人を叱るだけ。
何かしらの問題を抱えていることは間違いない律子の母。
警察に通報しない町の人びとは優しいのでしょうか?
罪を償う機会を逃し続ける律子の母はこの先どうなるのでしょうか?

 

この町の人々の対応に、「現状維持」というなんとも言えない苦い言葉が浮かんで来ました。
波風立てない、ことを荒立てない、なかったことにする、という考えは今も日本の地方に深く根付いています。
それはいち家庭レベルにまで深く根付いているのかもしれません。


私が子供時代を過ごしたのは昭和の終盤から平成の初期にかけてですが、私はまさにこの「現状維持」に苦しめられました。
男尊女卑と家父長制に染まった家庭でした。
父の様々な行いは「家庭の維持」のために全て許され、母も祖母も見て見ぬふりをしていました。
でも決して何の疑問も持たずに見て見ぬふりをしていたわけではないと思います。
そして父自身も「現状維持」のせいで歪められていたと、今なら想像することができます。

 

物語に話を戻すと、ミチルはあることをきっかけに律子と疎遠になります。
長い年月が流れ偶然再会する二人。
その場面に、私は「大人になって良かったね」と心から思いました。
泥棒の母に嫌でも振り回された子供時代の律子。
でも大人になってしまえば、自分で稼いで自分で居場所を選んで自分で自分を守ることができます。
その一方で、子供時代特有のひたむきさは過去のものになります。
喪失する、というのではなく、すでに過ぎ去った過去のものになる、ということがどうしようもなく切ないです。

 

5編の中で一番印象が強かった「仁志野町の泥棒」について述べさせてもらいましたが、他の4編もそれぞれ強烈ですよ。
「辻村さんは北島マヤなの?」と思うくらい主人公の女性になりきって描かれています。

現在、地方に住んでいる女性にも、過去に地方に住んでいた女性にもお薦めしたい本です。